庭造りを始める前に

(応用編)職人さんのテクニック

 植物にも言い分があるでしょうが、人間の都合でどうしても・・・という場合があります。さてどうしたらよいでのしょうか。つまり地上部と根のバランスをどうやって保ったり、回復させたりするかです。私たち生産者だけでなく施工技術者を含めた「職人」さんのテクニックをご紹介いたします。

植え替え前の「根切り」

 これは良く聞く方法なので簡単に説明しますが、植え替える前年の春に、苗木を堀り上げずに堀り取る予定の根鉢直径より小さめにスコップなどで根を切っておきます。こうすることで、地上部の成育が抑えられ、翌年植え替えるときには根の量が増えているので、両者のバランスが改善されて成功する確率が高くなります。
 ただし、大きくなった木の場合は単純には行かないので、専門家にたのんだ方が無難でしょう。

本植え前の仮養生

 植える予定の時期が適期でない場合、また現在植えている場所をとりあえず移動しなければならないときなどに有効な方法です。掘り上げた木を、火山レキ(鹿沼土と同様な効果あり)に仮植えして数ヶ月養生します。保水力があり、水はけもよいので発根が促され時期の悪いときの本植えに効果を発揮します。この方法は、挿し木の原理にヒントを得たもので、春に本州などから植木を仕入れて販売している取引先に勧めたところ、作業性も良く感謝されています。ただし1年以上の長期間放置しておくと、土壌に養分がないため衰弱することがあるので、この場合は肥料を施す必要があります。(次の写真は春に移植し冬に掘り上げたアカエゾマツで、新しい根がよく伸びているのがわかります。)

アカエゾマツの発根状況発根の詳細

根鉢を水に浸す

 掘り上げ直後から一定時間、土が落ちないように根を浸透性のある資材で包み、水を張った入れ物に浸しておきます。少なくなった根が効率よく水を吸い上げますが、あまり長時間浸すと、酸素不足で根に悪い影響が出てきますのでほどほどにします。近年、植物を活性化させる様々な業務用の薬品が出てきたので併用することが多くなってきました。

「葉むしり」と整枝

 読んで字のごとく、苗木を掘り取る前か直後に、間引きするように葉を手でむしりとることです。成育旺盛な時期の場合は伸長している柔らかな茎も含め適当にかき取ります。枝が密生していたり、徒長した枝が目立つ場合は、はさみを使って整枝(小枝の間引き)をすると効果的です。針葉樹の場合は、伸長している柔らかい部分の半分ほどをはさみを使わず手でかき取ります。

 なお太い枝を切るときは、切り口にろう状のものを塗って蒸散を防ぐとよいでしょう。私の失敗談ですが、ある年の5月に訳あってハクウンボクという木の枝を切ったときのこと、切り口から滴るほどの水が出てきたので、薬を塗ったのですが止めることができず、慌てたことがあります。これほど極端なケースは希だと思いますが、植え替えるのがわかっている場合、太い枝は前年の秋か冬のうちに落としておくのが無難です。

蒸散抑制剤を噴霧する

 一般の方にはなじみの薄い薬品ですが、水で希釈した(薄めた)ろう状の液体を、主に葉の裏にまんべんなく噴霧器を使って塗布します。葉の裏におおく存在する気孔を人為的にふさぎ、蒸散を防ごうという方法です。一度乾くと雨が当たっても落ちることはありません。ただし、盛夏のときには新陳代謝が盛んなので、さほど効果が期待できません。

 

堀りあけた直後から一定の養生期間を設ける

 知る人ぞ知る、適期以外の時の植え替えでは、究極の方法でしょう。内容をお話しするとなんだそんなことかと思われるでしょうが、以前はむしろ反対のことを行っていたのです。業界の裏話を交えてご紹介します。
 夏(7〜9月)に樹木を植え替えるのは非常識極まりないのですが、公共工事などの造園施工では工期の関係でやむを得ずこの時期に植栽(植え付け)しなければならないことがあります。生産者としては頭の悩ますことでした。お客さん(施工業者)の希望する日の直前に作業に取りかかります。当然、掘りあげた直後から葉がしおれてくるので、前述の方法を組み合わせつつ、すぐにトラックに積み込んで出荷していたのです。悪く言うと、自分の手元を離れたら責任はないといった方法でしたが、お客さんも、こんな時期だからなぁとあきらめ顔。
 ある日、注文を受けた木を用意した後に延期の連絡があったので、場内の大きな倉庫に保管しておき翌日おそるおそる見にいくと、なんと葉がピンとなっていたのです。旺盛に成長していた屋外と比べ涼しく、風がない。おまけに水をたっぷり与えていたので環境に適応し、回復してきたのだろうと思います。
 今では業界のなかば常識となっています。以前とは違い、この時期は出荷する1〜3日前に掘り上げて養生するようになりました。植えてからの活着率も向上したと考えられます。
 ただし、新芽が伸び始めたころは最悪で、手を尽くしても枯死する確率が最も大きくなります。むしろ伸びが止まった盛夏のほうがマシなことを付け加えておきます。

曇天のときに作業する

 炎天下では当然のこと弱りやすいので、曇天の時に作業した方がよいでしょう。

 上記のうち、4〜6は、緊急避難的な方法ですし、3、7は適期の時にはさほど気にする必要はありません。繰り返しになりますが、これらの方法はいずれも植物の地上部と根とのバランスを考えた結果、考えられた先人たちのアイデアであることをご紹介いたしまいた。まだまだ良い方法がある、内容が間違っているなどご意見のある方は是非ご一報下さい。