緑化植物材料としての樹木・草花は、海外からの輸入、品種の改良により私たちの目に触れる種類は急速に増え、花や葉の色など色彩的にみても豊富になってきています。従って単純な色名だけでは言い表すことができなくなっており、コミュニケーションをはかるためにはより豊かな色彩表現が求められています。また植物の持っている色彩が野山や都市の景観を構成する重要な要素になっていることにも着目しなければならないでしょう。
今回はマンセル色相環*でいう赤紫、赤、黄赤(橙)系統色について取り上げました。標準色のほかに植物の花色に関係する色のいくつかを「第2回」本文最後にあるPDF文書に、調査した実際の花の色の幾つかを右中央に示しました。なお花は透明感があり複雑な曲面を持つ立体であるために、HTMLを基にした記述や光沢があるインクを用いた印刷物では表現に限界があり実際の色調とは異なることを予めご了承ください。
虹の七色といえば赤、橙、黄・・・紫の色名と色彩が頭に浮かんできます。中学校の美術の授業だったと思いますが、色を表す「はかり」として色相、明度、彩度(クロマ)の尺度があることを学びました。言い換えれば色は三次元のデータつまり三種類の数値で表すことができるわけです。難しい話は専門書におまかせするとしても、単純明快にいかないのが色の世界です。
様々な色のサンプルをわかりやすく一定の基準で並べようとすれば3方向の軸が必要ですから机の上(平面)で整然と並べるには無理があります。数値を用いる方法はどうでしょうか。重さが10kgとか、長さが30cmという量であればほとんどの人が直感的に理解でき、また身の回りにある「はかり」で確認ができます。しかし色を先程の三種類の数値で表したとしても理解できませんし、調べようにも「はかり」がないのです。そこで花の色のように特殊な色を伝える方法として、相手が知っていそうなモノ等にたとえ「〜のような色」と表現することがあります。実に合理的な方法で、両者に共通する判断基準があることを想定していますが、いつもそううまくはいきません。たとえる色がないときはどう表現したらよいでしょうか。色彩についてコミュニケーションをはかるためにはもう少し私たちの使っているクレヨンの色数を増やさなければなりません。それと同時に他の人たちにも同じ色のクレヨンを持ってもらわなければ意味がないでしょう。解り合えない場合は予めクレヨンに相当する基準、たとえばカラーサンプル等のようにいつでも取り出せる媒体があればよいわけです。
私たちの業界にはこうしたものが普及していないために実務的にも不自由したり問題があったりします。電話で「とにかく濃い色の花を」「もっと赤いのを」といわれて困惑し、わざわざ写真を撮って送ったり、現物を届けたりすることもあるようです。世の中がやれインターネットだのモバイルだのと騒がしくなってきたご時世柄、ちょっとお粗末な感じがします。さて昨今、急速に普及してきたパソコンですがモニターに表示可能な色数は最低でも256色、32,000色以上が主力となっており、両者による画質の違いは誰がみてもはっきりわかります。このように私たちは視覚的に優れた目を持っているのですから、あとは表現力を備える環境をつくればよいのです。
私事で恐縮ですが、以前アルミ建材メーカーの着色技術に携わっていたときの話ですが、生産される製品の色調のバラツキをいかに小さくするか苦心していた時期がありました。様々な条件下で処理した製品のサンプルを色差計という装置を使って計測していたのですが、慣れてくると人の目のほうが正確なことが解ってきたのです。それはサンプルの表面が物理的、色調的にも均一ではないため、機械ではその条件を克服できず、ごく特定のエリアについて色を計測しているのに対し、人間の場合サンプル全体をみて、そこから受ける色のイメージを総合的に判断できるからです。カーテンウォール等の建材として考えるときは色差の判断は遠くから眺めたときが重要で、このほうが都合がよいのです。同様に私たちは植物学の研究者や学者ではありませんから、必ずしも各部位の詳細な色を論議する必要はありません。一輪の花、一枚の葉ではなく一定のボリュームで植物材料の色彩を考えていく事が大切ではないでしょうか。
植物に関する海外の書籍、商用カタログをみていると、色名にはかなり神経を使っているように思います。というよりはそれが当たり前になっています。標準的な色名に色の調子(トーン)に相当する形容詞を冠して、より正確な表現を心がけているものがほとんどです。ただし同じ花の色に対し、本やカタログによって異なる表現がみられるのでその辺は割り引いて考える必要があります。トーンについては次の表にまとめましたが、それぞれにはっきりとした基準がなく、あくまでも相対的で便宜的な区分として考えてください。
TOYO INK COLOR FINDER
アメリカの画家であり美術の教師であったアルバート・H・マンセル(1858-1918)が1905年に発表した表色系です。その後、アメリカ光学会(OSA)により改良され、現在のマンセル表色系が確立されました。マンセル表色系は色を3つの属性、すなわち色相(色の種類:H)、明度(色の白さ黒さ:V)およびクロマ(色の鮮やかさ:C)で表現します。
マンセル記号では色をH V/Cの順に書き表します。
例 有彩色: 5R 7.0/2.5 、5PB 4/6
無彩色: N3(明度3) 、N8(明度8)